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言の葉つづり

くつ

 その人は、満面の笑みで私の前に立たれました。
「はじめまして。今日は宜しくお願いします。」
腰のひくさに”ああ、営業のお仕事をされている人だなあ”と、すぐにわかりました。
相談は、今の仕事を続けた方が、いいかどうかという内容でした。奥様が、もう少し収入のある仕事にかわってほしいと言われるのだそうです。
でも、私はその方と話をしながら、ずっと他の事を考えていました。

それは最初、ごあいさつした時、その方のくつが破れているのが、目に入ったからです。
今の時代です。破れているくつをはいている人は、そういません。本当に、ご苦労なさっているんだなあと、心が痛くなりました。

営業のお仕事なら、どれだけ足をぼうにして歩かれるのだろう。
イヤな相手にも笑顔で頭を下げなければ、いけない。
時には、やりきれない時もあるでしょう。
頭を下げたといっても、その商談がうまくいくとは限らない。
本当に、働くとは、仕事するとは、辛いものなんだなあと、その方のくつを見て、思ったのです。

皆さん。ご主人や、お父さんのくつを、じっと見た事がありますか。
うちのお父さん、おしゃれだから、高いくつはいてますよと、おっしゃる方は幸せです。
一度、じっくり、みてください。くつの底が、すりへっていたり、土ぼこりをかぶっていないかどうか...もし疲れた様子のくつだったら、そっと、みがいてあげてください。「ありがとう」と言いながら!

いつもは面と向かって言えない言葉も、くつにだったら、言えるでしょう。
「ありがとう!ご苦労さま」

働くとは、本当に、辛抱の連続ですから。でも、そのお陰で、ごはんが食べられる。勉強させてもらえる。好きな事がさせてもらえる。
どうぞ、心からのありがとうを、くつに向かって、言ってみてください。

相談に来られたその方も、きっと、家族の方に「お父さん、ありがとう」と言ってもらえれば、どんなに辛くても、迷う事なく、誇りをもって、お仕事をする事ができるのではと思いました。

その人は最後に、よれよれのお札をポケットから出し、
「先生、きれいなお札を用意せず、申し訳ありません。」
と、おかれました。

私は、そのお札を見ると、何だかいとおしくて、いけませんでした。
そのお札が、一生懸命働いている人と重なったのかもしれません。

そのお札は、今も使わず、小さな箱に入れて、私の机の上に、おいてあります。そして、いつも、声をかけるのです。
「ご苦労様。頑張ってるね。ありがとう。」

一生懸命生きている皆さんに、心からのエールを送りたい。そんな思いを込めて、声をかけています。

お父さん、ご主人だけではありません。
奥さんやお母さんにだって。
エプロンに向かってでもいい。
毎日つけている家計簿にだっていい。
「ありがとう。ごくろうさん。」

子供さんなら、くつだって、自転車だっていい。
「今日も、元気でいてくれて、ありがとう。」

辛い人生を喜びにかえられるのは、自分自身です。
”自分のお役目を知り、覚悟をもち、愛をもって生きる”
それこそが、愛一紗の思いなのです。

どうぞ、伝えてみてください。
心からの思いは、必ず伝わると信じています。


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