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言の葉つづり

二人でお酒を

私がいつも行くバーに不思議な人がやってくる。
その人は背が高く、ロマンスグレーのジェントルマン。
ゆったりとした足取りで入ってこられ、そのまま一番奥のカウンター席に座られると、
店内をゆっくりと、眺められる。しかし、誰を探す風でもない。

その人は、ずっと前から、そこに居るような雰囲気がある。

おだやかで、あたたかい、その微笑には、バーへの愛着のようなものが感じられ、
私は、思わず、心暖かくなる。

そして、いつのまにか、居ない。

実は、あの紳士が居る風景は、私の空想の世界なのかもしれない。
見えるはずもない人。
感じるだけの人。


ある日、私は思いきって、そのバーのマスターに聞いてみた。
何をと思われるかもしれないと思ったが
マスターは驚きもしないで、さりげなく言った。

「ああ。それは亡くなられた前社長です。品の良い素敵な方でした。
いつもバーのお客さんの入りを心配して、よく来てくださってたんです。
そうですか。
来て下さっていますか。
うれしいです・・・」


今日も私は待っている。
不思議な人がやってくるのを・・・

今度こられたら、思いきってグラスをかたむけてみようか。

心の中で「こんばんは」と、言いながら・・・


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