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言の葉つづり

座敷童子(ざしきわらじ)

 昔、昔のお話です
 東北のある小さな小さな旅館(温泉宿)に、座敷童子(子供の神様)がでるという、うわさがたちました。その座敷童子を見た者は、みんな幸せになり、立身出世するというのです。
 その旅館は、以前は、その地方の庄屋さんでした。お城が落城した折、二人の幼い兄弟をひきとりました。弟は、すぐに亡くなりましたが、兄は、庄屋さんの家で、かわいがってもらい、数年後に亡くなっていきました。
 明治維新後、廃藩置県が行われ、庄屋制度がなくなりました。どうやって食べていこうかと考えていたら、庄屋さんの土地に、温泉がわき出ました。そこで旅館を始めたら、座敷童子が出るようになったのです。庄屋さんにかわいがってもらったお礼にと、幼い兄が座敷童子となり、その旅館に泊まる人々に幸せをもたらせてくれるというのです。

 私は迷っていたんだよ。こんな自分が本当に、みんなの相談にのれるんだろうか。私の一言、一言が、みんなに、どれだけの影響を与えるか、わからない。
 そう思うと、この仕事をするのが恐くていけなかったんだよ。そんな時、座敷童子の話を聞いたんだ。すぐに行きたいと思ったよ。
 もし座敷童子に会えたら、こんな私でも、みんなの相談にのれるかなって。何故かわからないけれど、そう思ったんだよ。

 忘れもしない平成十六年七月十三日
 ついに、私は、行ったんだ。座敷童子に会いに。
 今の旅館のように部屋にカギはついてないんだよ。うぐいす張りと言ってね。人が歩くと、ろうかが、ギシギシ音をたてるんだ。それで人が来たってわかるんだよ。そんな、ひなびた宿だった。座敷童子が出るというその部屋は、その宿の一番はしにある部屋だったよ。
 案内されて入るとね。おもちゃがいっぱいあるんだよ。座敷童子に会って、幸せになった人が、おいていったんだって。
 その日はね。ゆっくりお風呂に入って、食事をして。テレビはなかったと思う。
 私は、どうしても座敷童子に会いたくて、「絶対寝ないぞ、朝まで起きているんだ。」と思ってね。でも途中で、すごく睡魔がおそってきて、ちょっとだけ眠ろうと思ったら、いつの間にか朝になっていたんだよ。チュンチュンという鳥のさえずりで、目がさめたんだよ。
 夏だから、もう明るくなっていたねぇ。「しまった!」と、思ったよ。何のために、こんな遠くまで来たのか、わからない。しまったなあって・・・。

 ところが急に、体が動かなくなって、カナシバリみたいになったんだ。
 「えっ!」と、思っていたら、今度は、胸の上に、誰かが乗ったんだよ。それが、重くて苦しくて、息ができなくて。苦しいと思っていたら、だんだん胸が軽くなってね。何だろうって思ったら、小さな足音が、聞こえたんだよ。子供が歩く足音が。部屋の片すみに、屏風があったんだけど、そこから、私の布団の方に歩いてくる足音が聞こえたんだよ。そして足音は、私の布団の足元で止まったんだ。
 私は、思わず心の中で言ったんだよ。
 「ありがとう」って。
 どうしてかって!
 それはね、前夜、宿に張っていた新聞記事を、読んだからなんだ。そこには、こう書いてあったんだよ。「座敷童子は、のっぺら坊で、でてくる事がある。」って。
 私は、のっぺら坊は嫌だなって、思ったんだ。だから、足音が私の布団の足元で止まった時、思ったんだ。のっぺら坊が嫌な私のために、足元で止まってくれたんだって。
 だから、ありがとうって。
 そしてね、私は、見えたんだよ。
 いや、見えたというのは、おかしいね。
 感じたのかなあ。着物の下から、でている子供の小さな足首を二つ!!
 ゆうれいは、足はないっていうけれど、足首はあったよ(笑)。
 それから、気配が消えていって、カナシバリがとけたんだ。時計を見たら、朝の四時三十二分だったよ。

 今でも思うんだ。あれは何だったんだろうと。不思議な、不思議な時間だったよ。
 でも、私は信じてる。座敷童子が、私に「頑張れよ」と言ってくれたと。「素直な心で、みんなと向きあって仕事をするように」と、言ってくれたんだと。

 空を見上げて、いつも、座敷童子に、お礼を言うんだ。私が今あるのは、君のおかげだよって。たくさんの人に会えて、私も一緒に成長できているよって。

 ありがとう。座敷童子くん。

 見上げた空は、今日も、青いです。


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